谷崎潤一郎『春琴抄』に総べて絃楽器を弾く者は絃を押える必要上左手の指の爪の生え加減を気にするものだが必ず三日目毎に爪を剪らせ鑢をかけさせた
とあるが、事実弦楽器奏者にとって爪の手入れは重要な関心事である。春琴師匠が弾いたのは琴と三味線だったから爪の音に与える影響はギターほどではなかったろうが、それでも神経質といってもいいほどの気づかいようで、なら右手の爪が直接弦に触れ、音を大きく左右するギタリストならその神経の使いようはいかばかりであろうか。実際、ギターを弾く人間は多かれ少なかれ爪に悩みを持っていて、形、固さ、厚さ、強度などのもろもろで悩み、試行錯誤している。
私の爪の手入れ用品は、以前もいっていたようにプラモデル用の紙やすりだ。私は1000番で充分だといっていたが、世の中には2000番を使う人もいるらしい。いやあ、そうか、一度2000番で磨いてみよう。それで音が変わるようなら、2000番も必需品になるだろう。
と、そうした爪の手入れだが、いったいどれくらいの頻度でやるのがいいかといえば、それはやはり三日だと思う。春琴師匠に倣ったわけではない。今までの自分の爪の状況を観察してきた結果からすると、一週間では変わりすぎ、かといって一日二日では違いがなさすぎる。だから、三日を目安に、ちょっとずつ、あまり意識しない程度くらい削るというのを繰り返すのがよさそうで、なるたけ同等のコンディションを保てるならそれに越したことがないということだ。
とはいっても、ついつい忘れがちになるのが爪の手入れで、あ、伸びすぎてると感じた頃にはもう遅い。実は、今がすでにそんな感じで、多分明日か明後日くらいで1週間経つだろう。と、それくらいで状況はきっかり変わる。
明日くらいに、手入れをしよう。