1997年、年度末においてのまとめ、及び展望

 来年度に修士論文を作成するにあたり、1997年度において行われたゼミで得たこと、また調べた資料などをもとに、まとめを行う。その際に、1997年度全期終了間際に作成した修士論文のための仮アウトラインをもとにし、テーマの再確認と方向、及び知識、情報の修正、を行う。

 仮アウトラインでわたしが述べようとしていたことは、19世紀において作り出された「天才」、民族の英雄という意味を付与されるような芸術家、という概念が、過去を乗り越え克服していくという「進歩史観」的なものの見方の中で、20世紀の作曲家にプレッシャーを与え、そのプレッシャーが20世紀初頭から第二次大戦後にわたって行われた、芸術運動の根本的な動因であったのではなきか、というものであった。芸術家に対し過去を乗り越えるよう義務づけられたものの、そのあまりに偉大とされてきた過去を乗り越えるということの困難さが、芸術家をこれまでの芸術を否定するような芸術運動や、極端な(当時においての)前衛的芸術活動、実験などに駆り立てたのではないか、としたのである。

 以上の考察を進めていく上で必要になるだろうと考えた要素は、

  1. オリジナル概念というものはいつ作られ、変容してきたのか
  2. 芸術家像はどのように変わってきたのか
  3. 芸術家自体は、オリジナル概念や芸術家像をどのように考えていたのか

と、大まかにいうとこうであった。

 この中で、(1)、(2)については、現在の意味でいわれるそれらの概念は19世紀初頭には成立していた、ということでひとまず了解した。「独創性」は18世紀後半に現れ、「天才」も18世紀中期に現れてきている。そしてそれらが19世紀に入り今日的意味を持つにいたり、また当時のヨーロッパに見られた民族主義的傾向も加わり、結果芸術家を民族の英雄とし、神格化、聖人化する動きまで現れた。また、この作曲家を神格化すると同様に、芸術を至上のものとする考えも生み出されている。

 これらの要因が与えただろう作曲家への影響(3)については、具体的な証拠としてあげられるだけの根拠、資料をまだ見つけ出してはいない。しかし、シェーンベルクの十二音技法がドイツ音楽の優位を示すだろうとする言説や、様々な主義が様々に提出されたことは、新しい主義、技法を提出する芸術家が芸術の世界をリードする者であるという、当時の考えをうかがい知るための要素といえるのではないだろうか。

 しかし、この新しい主義や技法を生み出そうとする運動が、この時代に特有のものと思い込むことは間違いであった。西洋の音楽を歴史的に見ると、簡素な様式や混沌とした作法の中から、作品を統一する理念を見いだし、発展させていこうとする流れが、いくつも存在している。例えばそれはルネサンスにおいてのカノンであり、バロックにおけるフーガであり、そしてソナタであり、西洋においてはこの様に純粋に音を組み合わせていくという構成する楽しみを見いだすこと、その構成の理念を打ち立てていくという志向が、根本に存在するのではないか、とうかがえる。もしこれが西洋にある根本的な考えであるのならば、近代に起こった芸術理念の模索も、近代特有の現象であるというものではなく、この動き、考えとなんら変わることのない、同じ運動だったというべきなのだろう。

 これ以降にするべき作業としては、何よりもまずテーマを具体化し、絞り込んでいくということなのであるが、それと並行し、以上に述べてきたこと、今年度に行ってきたことをもとに、考えを再構成することであろう。

 20世紀初頭の作曲家が求めていた新しい様式、主義、技法というのが、近代特有の動きではないとするとして、ならば以前から述べていた彼らの行った活動の根拠や動因を再び以前どおりの「オリジナル概念等からのプレッシャー」として、同様に考えていくことができるかどうか、再検討する必要がある。わたしは今もってなお、彼らの活動を説明する一要因として「オリジナルうんぬん」を用いることは可能であると考えてはいるが、しかしこれを20世紀初頭の、シェーンベルクらに当てはめることが得策かどうか、むしろそれ以降の、1997年度前期において第二次世界大戦を終えるまでは未だ19世紀の延長であったという確認をしたことも考慮に入れ、その大戦間及び大戦後の作曲家の活動、運動に目を向ける方が、より納得できる結果を得ることができるのではないか、それらを検討していくことが必要であるように考える。


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公開日:2000.08.16
最終更新日:2001.09.02
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