音楽の根源的な力がこんなに豊かに

武満徹『ギター作品集成 1961-1995』


武満徹『ギター作品集成 1961-1995』鈴木大介(ギター)フォンテック(FOCD9114)


 武満徹といえば難解な現代作曲家というのだろうか。そう思っているならば、武満徹をきっとまだ知ってはいない。

 武満徹が我々と同じ時代に生き、同じ音楽を共有してきたことをまず確認する必要がある。彼にとって音楽とは新しいクラシカルなジャンルのそれであり、同時にポピュラーな地平に開かれたものであり続けていた。彼の音楽語彙には、古典とコンテンポラリー、そしてジャズやロックにいたる歴史的にも地理的にも開かれた広さと、つまらないジャンル区分などに捕われることのない自由さが同居して豊かである。表現する場こそはクラシックの延長に位置した彼である。しかしそれは彼と彼の音楽にとっては不幸であったといえよう。なぜなら、その瑣末なジャンル分けが故に、本来ならばもっと広く聞かれ、愛されて然るべき彼の作品群が、一部の愛好家に占有されるばかりとなってしまっている。私はそれを惜しむものである。

 ギターを愛した彼は、多くのギターのための作品を残した。オリジナルはもとより、映画音楽として作られたもの、そして編曲。一聴すれば分かるだろう。透明で豊かな和声に浮かぶ旋律が印象的で、物悲しく感傷的な美しさが鮮やかに陰影を伴って力強い。しかしそれらは決して孤高ではなく、同時代を生きる我々に身近で、真っ直ぐに向きあうことのできる暖かさ、しなやかさにあふれたものだ。編曲『ギターのための12の歌』では、ミュージカルナンバーやシャンソンはいうに及ばず、ビートルズの作品をさえ聞くことができる。よく知られた曲ばかりである。だがそれらは知られた姿を保ちながらも、和声の装いを変えて彩りも新たに鮮烈で、そして変わることなく美しい。

 武満徹を知らぬものは幸いである。なんらの偏見もなく、これら小品を耳にすることができる。武満を知りながらこれらに出会えていなかったものもまた幸いである。きっと彼の多様な側面を新たな光にて照らすことができるだろう。


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公開日:2003.08.27
最終更新日:2003.08.27
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