図書館資料論

「蔵書構築に関わる諸問題について概説しなさい。」


 図書館では、いうまでもなく、図書を代表とする資料を体系的に所蔵し、そのようにして構築した蔵書を利用者に提供することを使命としている。また図書館に所蔵される資料は図書のみにかかわらず、書籍、雑誌、パンフレット類から、CD、ビデオ、LDなどの視聴覚資料、地図、絵画など、そして点字資料やマイクロフィルムなど、多岐にわたっている。また蔵書構成を図書のみに限ってみても、それぞれの図書館の持つ特性により異なるのであり、一般的な公共図書館では小説等が多く所蔵され、大学図書館などの専門性を持つ図書館では研究所や専門書の類を中心に蔵書が構成されることとなる。

 このレポートは公共図書館というある意味広く知られ一般的な図書館の事例だけではなく、わたしの勤務している音楽大学付属図書館で知りえた事例を加え、それらを元に展開してゆくこととなる。

 蔵書の問題を考えるにあたり、まず出版活動と図書館との関係に目を向けようと思う。というのも図書館が図書資料を中心に収集している以上、出版活動は最も図書館と関わりうる問題となるからである。

 近年、本の出版点数は増加する傾向にある。これは読者の増加が原因というよりもむしろ読者の本に対する好みが細分化された結果、多様な読者のニーズに答えるべく様々なジャンルにわたる書籍が刊行されるようになったためといってほぼ間違いないのではないだろうか。この出版点数の増加と関わって、図書館はこの大量の書籍群から蔵書に加える書籍を選択しなければならないという問題が生じて来る。

 この問題に関してならば、大学図書館などの専門的な図書館よりも公共図書館のほうがより困難であるといえるだろう。なぜなら専門的な図書館はその図書館が専門とする領域の書籍を網羅、体系的に所蔵することがなによりもまず大切なことであるのに対し、公共図書館は利用者のニーズに沿って読まれる図書、一般の利用に供される図書を収集していかなければならないからだ。出版点数が少なかった頃とは違い現在では出版される本の種類、ジャンル、対象も様々で、またそれを求める利用者の好みも多様を極めている。この様ななかで公共図書館はまず話題となり利用の多い図書を押さえることを第一とし、それ以外にも利用されうる書籍を、出来るだけ早く所蔵できることが望ましい。このためには出版される書籍の把握と読まれる本の動向を知っておく必要がある。

 出版点数の増加にともなう問題として絶版書籍の増加がある。出版点数が増えても売れる本は限られているため、売れない本は直接的に不良在庫として出版社、問屋、書店を圧迫する。そのため近年、書籍が絶版となるサイクルが短くなり、後に図書館が求めようとしても入荷が不可能となるケースも数多い。しかし大型書店のなかには書店在庫として絶版書籍を所蔵しているところもあり、わたしの勤務する大学図書館での事例として、火事で焼失した絶版本がこの様な形で再度所蔵することが出来たということがあった。しかしこの様な一部の書店ベースで書籍の流通が支えられるのではなく、小部数での発行なども考慮にいれ、出版社側からも絶版点数を減らす努力をしてもらいたく思う。

 先ほど触れた図書の選択、選書作業を図書館側からもう少し詳しく考えてみることにしよう。選書作業にはまず選ばれるべき図書と購入する図書の目安が必要となる。新刊書を購入するには新刊書のリストとして『新刊全点案内』、『新刊情報』、『これから出る本』などがあり、これらを利用し新刊書の出版情報を得ることが出来る。またこれら冊子から得る情報以外にも、書店または取次会社が図書館に資料を持ちこみこれらを直接選書する「見計らい」という制度がある。しかしこれらの手段によって図書を知ったとしても、最終的にそのなかから所蔵する本を選ぶ作業が残ってくる。この際に先ほどいった購入図書の目安が必要になるのである。そしてこの目安とは利用者が求める本を知ることに他ならない。例えばその図書館での過去の利用記録から人気のあるジャンル、テーマ、作家、シリーズについて知ることは出来るし、また新聞やテレビ、書評誌などでの書評、本の紹介は読者に直接的に本の利用を促すという点で、選書の材料としては申し分ない。さらに既刊本であれば売り上げランキングや話題の本に関する新聞、雑誌、または書店での展開なども選書の材料として生かすことが出来るだろう。

 また図書館にもよるが、独自のコレクションを持つ図書館も少なくなく、この様な場合は特に自館のコレクションに関する書籍の出版動向に注意する必要がある。独自コレクションとしては公共図書館では地域資料などが多く、大学などではその大学にまつわる事物或いはその大学が特に力をそそいでいる分野の資料などが多い。例えば地元の長岡京市立図書館では長岡京関連資料、わたしの勤務する大学図書館では作曲家大栗裕に関するコレクションがある。

 このようにして選択、購入した本は利用者の手に速やかに届くよう、出来る限り早く受け入れ業務を済ませ排架するのが寛容である。納品された本は検収、会計処理を済ませた後、登録、装備がされ排架されることとなる。この際に出来るだけ手続きの無駄を廃し、本の鮮度が落ちないうちに利用者の目に触れるよう排架するよう心掛ける必要がある。

 登録、排架された後、資料は実際に利用に供されることとなる。この際に問題になるのが本の劣化や紛失等、管理面での問題である。劣化の問題として重大なものが酸性紙本の問題である。近代製紙法で持ちいられるインクの定着剤に含まれる硫酸が紙自体を痛めるため本の寿命を著しく低下させるのである。しかし本の劣化は酸性紙のみに起因するものではなく、利用による劣化、経年劣化など様々な原因が絡み合っている。そのため、図書館では資料の保存の観点から、特に貴重書などから、保存のための対策を考えている。酸性紙本や経年的な使用による劣化などから本を守るため、原本とは別にコピーを作成したり、また電子化という手段がとられることもある。わたしの勤務先での具体例をあげると、山田耕筰全集の旧版は既に絶版し入手不可能となっているため、禁貸出資料とした上に、コピーのさいの劣化を防ぐためハードコピーが複数冊用意されている。また書籍以外のSP、LPレコードなどの劣化を防ぎ資料として残すために、コピーが作成されることもある。この様な貴重書、絶版書以外の書籍では、破損箇所を製本テープなどで補修したり、またあまりに破損がひどい場合には再度購入するなどして蔵書の維持をはかっている。また、劣化以外にも紛失という問題もある。紛失は貸出先での紛失、未返却、そして盗難などが主な原因であるが、以前に述べた焼失という事例もある。しかしいずれにせよこの様な場合は再度購入しなおす以外に手はなく、つくづく利用者の意識の向上を願わずにはいられない。また破損も利用者の心ない行為によって起こることがあり、わたしの勤務図書館以外の例では、禁貸出禁コピーの図書がページを破られて使用できなくなることが多発したことがあったという。また人気のある本や、大学では授業等に利用される本が盗難にあいやすく、購入排架する度に盗難されるといったこともあるという。このような盗難などに対処するため、利用者の手荷物館内持ちこみの禁止や盗難防止用のセンサータグを書籍に装備するなどの防御、対応策がとられることも多い。


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公開日:2000.08.23
最終更新日:2001.09.02
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