ライブラリアンへの道

書狂という人種

 趣味はなに? と聞いて返ってきた答えが「本です」だったら、ちょっとご用心。なぜ「読書」ではなく「本」なのか。もしかしたらその人は、本を読むことよりも集めること、手にすることに取りつかれた、書狂と呼ばれる類いの人かも知れない――

図書館の専門用語をひもとく

 他の専門職と同様、図書館業務においても専門用語が存在しています。例えば、排架という言葉。この言葉は、普通の辞書には収録されていません。

 こういった、図書館特有の用語を収録した資料もあって、ちょっとまじめなことを書こうとした場合なんかには、手放せないツールとなっています。代表的なツールとしては、日本図書館協会用語委員会編集の『図書館用語集』をあげることができるでしょう。

 先達て、仕事でちょっとまじめなことをしようとしていたときに、正しい用語を知りたくて『図書館用語集』を手に取ってみたら、これが実に面白いのでした。今まで気にも留めてなかったような言葉まできっちり解説されている。目から鱗が落ちるような体験でした。というか、熟読してしまって仕事にならないのは問題です。

『図書館用語集』の第一項目の謎

 『図書館用語集』の扱う用語群は、そのどれもが示唆に富む興味深いものばかりなのですが、中でもふるっているのがその第一項目。のっけから、意表をついてくれました。まさか、これからくるか、くーっ。とばかりに、唸らせられてしまったのです。

 では、実際に第一項目を見てみましょう。

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あいしょか 愛書家 (bibliophile)
図書を愛好し、収集・所蔵する人。図書の内容を読むことに主な関心がある読書家・読書人とは区別して、図書を物品として私有することに熱中し、限定版・私家版などの、いわゆる稀覯書(きこうしょ)・珍本を収集する人のことを指していうことが多い。愛書家のうち、特に熱狂的に本の収集・所有欲にとりつかれているものを書狂・書痴・ビブリオマニア (bibliomania) などということがある。

『図書館用語集 改訂版』日本図書館協会用語委員会編(日本図書館協会,1996年),3頁。

 奇妙なことに、愛書家という用語についてはこうして項目が割かれているのに、「読書家」という項目は存在しないのです。愛書家に関しては、書狂からも書痴からも「を見よ」参照が作成されています。対して、この読書家の扱いのぞんざいさはなんなのでしょうか? 愛書家とは、取り立てて項目を立てさせるほどに、重要な存在だというのでしょうか?

僕ならばこう読む

 この対照的な二者の扱いの違いを見て、僕はあえてこう考えたいのです。図書館という仕事にあえて従事したいというものは、多かれ少なかれ書狂の気があるものだと。読むことが好きなのは当然としても、同時に本を集めることに喜びを覚える徒は決して少なくないはずだ。そして、そういう人こそが図書館学の中枢にいるのだとしたら、図書館用語として、特に愛書家が取り上げられるのも当然ではないだろうか?

 この愛書家という言葉に、僕は図書館という仕事の一面を見たいのです。

さてじゃあ僕はどうなん?

 では、この愛書家の定義を、自分に照らし合わせてみましょう。

 愛書家の定義は、簡単に以下の三点にまとめることができるでしょう。

  1. 収集への傾倒――買っただけで読んでない本があるか?
  2. 稀覯書への愛着――初版、絶版等にこだわるか?
  3. 私有の欲求――借りるか買うか?

 これをチェック項目とすれば、自分の愛書家度が分かるというものです。

結果

収集への傾倒
 僕が買う本の点数は、確かに普通一般の人をはるかに超えています。でも、読めないほど本を買ってしまうのは、別に集めるのが好きだからではなくて、本との出会いは一期一会と思っているから。これを買い逃すと、二度と出会えないかも知れないとの思いが、購入へと駆り立てるだけ。いつかは読むつもりなのです、読める読めないは別として……
稀覯書への愛着
 これは、今のところさほどではありません。初版と後刷があれば初版一刷を買ってしまうといえ、また複数冊持っている絶版本や限定本も数点あるとはいえ、まだ私家本には手を出していない……から大丈夫ですよね。
私有の欲求
 これは非常に危ない。図書館に携わりながら、元来本は借りるよりも買う性質。資料は常に手元に置きたいというもっともらしい理由もありますが、やはり本を所有するということに関して喜びを感じているといっても差し支えないでしょう。

 とのことから、僕は間違いなく読書家よりも愛書家に近い人間であるということが分かりました。皆さんはどうですか?

おまけ

 有名な愛書家といえば、フランス文学者の鹿島茂氏を忘れるわけにはいかないでしょう。『子供より古書が大事と思いたい』というエッセイを上梓されたほど。あらゆる手段で金策し、フランスの古絵本を買い集めていらっしゃるのだそうです(うらやましい)。また、荒俣宏氏も愛書家として有名。ほかにも調べれば、続々と出てきそう。

 そもそも学者、作家という人たちは、資料に対するこだわりがすごいもんだから、多かれ少なかれ愛書家の素質はありそうですけどね。


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公開日:2002.03.01
最終更新日:2002.03.01
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