お目当て

 誰かを伴い、どこかへ行きたくなったらしい。私はお目当てを求めて学内をふらふら、とりあえずひとりに話を付けたようだ。ただ常に優柔不断である私は、その娘に決めたことに納得がいかなかったか、あるいは一緒に行くという確約がとれなかったか、どちらにせよまだふらふらと、もうひとりの目当てを探してさまよっていた。

 一言断っておきたい。私は本来そういう、本命にすっぽかされたときの保険を用意しておくような人間ではない。どちらかといえば、ほら不器用にも、最初に約束を取り付けたのが本命でなかったとしても、その後本命の色よい返事を得られる機会があったとしても、最初の約束に殉ずる、そういうタイプだ。加えていえば、当日すっぽかしを受ける破目にもなりかねない――、いや今はそういう話はいいのであって、ともあれ夢というのは人間の本心が出るというからして、つまり私は本心では、他人を傷つけたとしても用意周到に保険をかけたいと思っているのだろう。

 このところの不況を打破すべく、阪急梅田駅が大幅改装し食のテーマパーク化する運びとなっていた。今はまだつぎはぎ、あちらこちらに工事中改装中の進入禁止、あたかもバラックの林立するような雑多な空気が漂っていた。そんな梅田駅の、とある仮営業中の店内で、私はもうひとりのお目当てを見付けた。彼女は友達と一緒だったが、幸い知り合いである。近づいて声をかければ、どうぞと席を勧めてくれた。私は荷を下ろし、フロアを取り囲んで営業中の店店に顔を出して、ぺらぺらのポリの皿にのせる料理を物色していく。最初の数店は、軽食お菓子の類いを扱っていた。ソフトクリームを食べたかった。だが先になにがあるか分からないので、一回りしてから決めよう。料理はだんだん本格的になっていき、だがなんだか無国籍風だ。色の濃い出汁の中に煮詰まっていた得体のしれない具が思い出される。海老か? 脚が見える。なんか嫌だな。この店を選ぶのはやめようと思った。


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公開日:2004.06.13
最終更新日:2004.06.14
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