シリーズ 旅行けばイタリア

サン・ジミニャーノ,シエナ

金曜日
ユーロエクスプレスバス乗車→サン・ジミニャーノ着→参事会教会→サン・ジミニャーノ発→シエナ着→ドゥオモカンポ広場→シエナ発ユーロエクスプレスバス下車

フィレンツェから一路ローマへ

 フィレンツェの最終日はどたばたで出立。ローマ行きのバスツアーに便乗して、移動中に観光してしまおうという魂胆なのであります。立ち寄るのはサン・ジミニャーノとシエナの二都市。両者とも、イタリア中部に位置する山あいの小都市。中世の雰囲気を残す、まさにヨーロッパ! という景観がなによりの魅力です。

 今日は今までとは違い、ツアーコンダクター付きのお任せ旅行。バスに乗せられて、ついたところで観光するばかりという、非常に楽な行程のはずが……僕は車酔いをするたちなので、少々辛い旅になるかも知れない予感が…… こういうときにはさっさと寝てしまうに限る。少々心もとないバスツアー、提供はJALであります。

サン・ジミニャーノ

 サン・ジミニャーノで許された時間はたったの三十分。これだけの時間で、観光と買い物を満足させなければなりません。とはいうものの、三十分ではどうにもこうにも無理というもの。すべてをさっさとちゃっちゃと済ませなければ、バスの出発に間に合わないという、イタリア旅行初のタイムリミット付き観光と相成りました。

サン・ジョバンニ門 バスが着いたのは、町の入り口であるサン・ジョバンニ門近く。サン・ジョバンニ門からサン・ジョバンニ通りを通って、一路ドゥオモ広場へと向かいます。サン・ジョバンニ通り脇には、土産物屋と明らかに現地の人向けの商店が立ち並んで、質素ななかに活気を持っていました。まだ朝の時間だったのでにぎわいこそないものの、生活にしっかりと根差した商店群での買い物は、なかなか楽しいものでした。

 ここで買ったのは、ワインを一本とサフラン。日本で買えば馬鹿高いサフランが、ここではものすごく安かったのです。こりゃ嬉しいと結構たくさん買ってしまいました。それこそ、大量に買い占めて日本で転売しようかと思ったくらいに安かったのでした。食べ物以外では、焼き物なんかが結構可愛くてよかった。とはいえ、サフラン探しに僕は掛かりっ切りだったので、焼き物を見る時間はほとんどなかったのですけど。

 サン・ジミニャーノの名物というのは、猪肉の薫製やハムだとコンダクターさんが案内してくれていたのですが、結局それは買わず仕舞いでした。というのも、猪製品は検疫を通らないのだそうです。持ち帰れないものを買うのもなんなので、今回は見送りでした。

参事会教会

 ドゥオモ広場についたら、とにかく観光。ヨーロッパ最大の観光スポットは教会にほかならないというポリシーにもとづき、手近な参事会教会に飛び込みました。時間がないので、主要な部分だけを駆け抜けるようにしてみた参事会教会でしたが、ここには彼の聖セバスティアーノの巨大な殉教画があって、思いのほかの感動を得ることが出来ました。今まで見たどこよりも大きな壁画が、正面入口の上部の壁一杯に描かれていたのです。ああ、ここではセバスが主役なんだと、まっこと感銘を受けたのでありました。

受胎告知 教会自体はこぢんまりとしたものですが、本日の聖務日課で着用する装束を紹介する一室を設けるなど、サービス精神は満点。ビリエッテリア脇、入り口すぐに受胎告知の壁画があるなど、教会の隅々までが聖画に埋め尽くされているような感じを受けるほど。実際そこにいた時間以上に、教会の風物を堪能できたように思います。

 教会を見終わると、もうバスの時間が迫っている! 大急ぎでサン・ジョバンニ通りを抜け、それでも買い物だけはしっかりして、バスに乗り込みました。全員乗車(といってもお客は七名)を確認してバスは出発。次の目的地、シエナに向かいます。

シエナ

シエナの表通り シエナ、シエナは坂の町です。町全体が自然の起伏に彩られ、それが一種のアクセントをうみだしています。目抜き通りも緩やかに傾斜を見せ、枝分かれする路地は階段になっている。シエナ最大の広場であるカンポ広場も、すり鉢状の勾配がついて、ちょっと他にはない景観です。

 町は、煉瓦色一色に落ち着いたたたずまい。ツアーコンダクターさんのいうには、これはこの色以外で建物を建てることが禁止されているためなのだそうです。昔ながらの景観を保存していこうという、イタリアの意欲はここにもみられました。むしろ、このような都会の喧騒を離れた地にこそ、往時イタリアの景色がよく残されていると感じます。

 町の中心部、カンポ広場周辺ともなると、リストランテやバール、食品店、さまざまに小物を売る店がひしめいて、買い物好きもきっと充分に満足できるだけのにぎわいを見せています。

 シエナの名物というのは、パンフォルテというお菓子なのだそうです。これは猪と違い検疫を通るので、しっかりと買い求めました。木の実類を混ぜ込んだ大きな焼き菓子で、切り売りされています。ちょっと香料が強めで好き嫌いのわかれそうな風味ですが、これもイタリアの食文化の一端であるわけで、となれば一度は食べておきたいもののひとつでしょう。

ピノッキオたち 土産物では、ピノッキオの人形が目に付きます。このトスカーナ地方は、ピノッキオとゆかりある地なのだそうで、あちこちにピノッキオの人形や本、絵本が売られていました。

 また、ここでもワインを買っています。このあたりはキャンティの産地なのです。葡萄の蒸留酒であるグラッパというお酒もあって、これがまた可愛い瓶に入っているので、ついつい飲まなくても買ってしまいそう。見た目は無色透明なのですが、アルコール度はかなり高いので、お酒に弱い人は要注意。がつんときますよ。

ドゥオモ

シエナのドゥオモ シエナのドゥオモは、初の観光ガイドつきの見物となりました。決して大きくない建物ですが、昔フィレンツェのドゥオモに対抗して巨大化しようという計画もあったんだそうです。でもその計画は途中で頓挫、シエナの凋落がその原因でした。今も残る、建築途中の建て増し部分の一画は、ドゥオモ美術館として利用されているようです。

 シエナのドゥオモは、ファサードの上部にある三角が印象的でした。この三角の内側いっぱいに描かれた聖画が、それが日に照らされて見事。またこの教会には、双子に乳を与える狼の伝説にもとづいた像があって、それもひとつの見どころなのだそうです。

 教会の内側に入れば、交互に積み重ねられた色大理石が楽しげなコントラストを醸して、他にはない華やかさがありました。この教会は、ピサの職人を遠くから呼び寄せて作らせたため、ピサ様式といわれる、オリエンタルな雰囲気を合わせ持った外観が特徴です。ですが、シエナは一時は隆盛を極めたものの後に凋落を見せたために、彫像を入れるためのスペースだけが残され、けれどそこに入るべき像はないなど、面白いアンバランスさが歴史を物語っています。

 ドゥオモで印象深いのは、説教壇でありました。説教壇は、神父がここにのぼり信徒たちに神の話をする、一段高くしつらえられた小さなバルコニー様の張り出しです。この説教壇が、ニコラ・ピサーノによる傑作と伝えられています。

 他にも、聖壇前に敵を打ち負かして奪ったという旗竿が残されているなど、見どころはたくさんあります。かつてシエナが繁栄を見せたという証拠でもあるのでしょう。

カンポ広場

カンポ広場 カンポ広場はシエナの中心。市庁舎があるというだけではなく、祭のさいには地区の名誉をかけるスタジアムとしても機能する、政治においても生活においても、シエナの人々のよりどころといえる広場なのだそうです。

 広場は扇状に広がっていて、市庁舎前を底としたすり鉢状の傾斜があるのは、最初にいった通り。市庁舎であるプブリコ宮殿にはマンジャの塔がそびえ、偉容を誇っています。残念ながらこれに登る時間はありませんでしたが、時間さえ許すのならばぜひ登っておきたいものであります。

 市庁舎の反対側にはガイアの噴水があり、その彫刻もひとつの観光的モニュメントなのだそうです。本物は博物館にあってこれはレプリカなのだそうですが、こういった町中に美術品が自然に置かれているというところが、イタリアらしいなと思うところでした。

 昼食をとったのは、ここカンポ広場を取り巻くリストランテのひとつです。市庁舎に向いて右側に位置する、そのリストランテが非常においしい料理を提供するのでした。食べたのはサラダとラザーニャでしたが、そのラザーニャが絶品。薔薇色のソースがかかっていて、この世のものとはちょっと思えない豊かな味わいでした。

 さらに、ティラミスがまた独特。ビスコッティで出来た器に、とろとろのティラミスが盛られています。それはちょっと暖かで、なめらかで、とてつもなくおいしかった。他にもいろいろな店でティラミスを見ましたが、こんなふうなティラミスはここだけでした。

 シエナも、時間を追われての駆け足観光でしたが、もしまた次回があるのなら、じっくりと滞在したい町であります。穏やかであり、豊かである。非常によい時間を過ごすことの出来そうな予感に満ちた町でした。

おまけ

ロウソク製作の実演 シエナのお土産で白眉だったのは、カンポ広場近くのロウソク屋。店先でロウソクを作って見せているのですが、このロウソクがまた工芸品といってよい美しさでした。

 店自体は小さなかまえなのですが、狭しと並べられたロウソクは、花をなかに固めたものあり、何色ものロウを層状に重ねたロウソクをナイフで切って装飾したものありと、種類自体もバラエティに富んでいました。

花を封じたロウソク 正直、燃やすのがもったいないようなロウソクの数々。これらは観光のお土産にもよければ、また地元の人も買いに来ているようで、ちょうどここで知りあったルイーザという娘さんは今日が誕生日という話で、ちょっとしたコミュニケーションを楽しめ、非常に嬉しい幸いな店でした。

 その日が誕生日というルイーザに、イタリア語でなんというのかわからなかったので、フランス語で誕生日おめでとうというと、彼女のお父さんもフランス語がわかる人だったので、ちょっと親しみを感じて話が盛り上がりました。ルイーザは非常に人懐っこい可愛いお嬢さんで、ちょうど一歳になったところ。彼女はこれから、シエナという、とてもよい環境にはぐくまれて育つのでしょうね。


<   >

日々思うことなど 2001年へ トップページに戻る

公開日:2001.11.06
最終更新日:2001.12.06
webmaster@kototone.jp
Creative Commons License
こととねは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示 - 継承 2.1 日本)の下でライセンスされています。