Wizardry

Wizardryをノーリセットで遊ぶ:序文にかえて

Wizardryのシステムについて

 Wizardryはコンピュータで遊ぶRPG(ロールプレイングゲーム)の元祖であるといわれています。1981年にアップル II 用のソフトウェアとしてリリースされて以来、さまざまなRPGに影響を与えながらも常に最前線にあり続ける、まさしく生ける伝説と呼ぶにふさわしいゲームです。

 3Dで表示された迷宮を6人パーティで探索するというスタイルは、最古のコンピュータRPGでありながら、他に類を見ない独自性も有していて、例えばそれは前衛後衛の概念やロストというシステムなどをあげることができるでしょう。現在流通しているRPGでは煩雑あるいは難易度が高くなりすぎるなどの理由でかオミットされている要素が、Wizardryには生き生きと息づいているのです。

 さて、ここでWizardry独特のロストについてちょっと説明をいたしましょう。Wizardryではキャラクターの死に対して強烈なペナルティが用意されています。それがロスト。キャラクターが死亡状態からの蘇生に失敗すると、灰に移行し、灰からの蘇生に失敗するとロストします。ロストというのは、そのもう二度と蘇生できない状態のことです。つまり、冒険者がロストすると名簿から抹消されてしまい、もう彼に会うことは二度とできない……。この強烈にして奥深いシステムがあることでWizardryは孤高の位置を占めているといえるのではないでしょうか(もちろん他にも長所はいっぱいありますが!)。

 キャラクターの死がロストに繋がるということも脅威でありますが、それでも蘇生する可能性はかなり高いのですよ。そもそもWizardryにおいてキャラクターは非常に死にやすくなっています。一撃必殺の呪文の存在、そして一撃必殺のクリティカルヒットも。高ダメージのブレスを立て続けに浴びれば、後衛の魔術師などひとたまりもありません。だから一度や二度の死など、なんてこともないのです(いや、ショックですが。めちゃめちゃショックですが)。死以上にプレイヤーが怖れるもの、それは全滅です。一般に流通するRPGでは全滅はさほどの脅威ではありません。直前のセーブポイントに戻るか、あるいは特に致命的でもなんでもないペナルティを受けて復活するか。ところがWizardryでは全滅はただの全滅でしかありません。ゲームはそのまま進行するのです。全滅したパーティはなお迷宮内にとどまっており、死亡状態で助けがくるのを待っているのです。だからプレイヤーはパーティ全滅の危険を予測し、並行して2パーティを育てるのも珍しいことではありません。パーティ全滅の一方が入れば、救出隊が組織され迷宮深部に潜るのです。この救出隊というのはいわば決死隊です。なぜなら、キャラクターを回収できる余地を残すためフルメンバーでの出撃ができないからです。同程度のレベルの冒険者たちが全滅するような場に、メンバーを欠いた状態で向かわなければならない。そのため、二次遭難も充分にあり得ます。

 全滅ポイントにたどり着き、迷宮内に残るメンバーを探したところ人数が6人に満たないことがあります。アイテムや金がなくなっていることもあります。それらは迷宮に潜むモンスターや盗賊の類に荒らされたのでしょう。捜索して見つからないメンバーは蘇生するしない以前に失われてしまっている、つまりロストしているのです。

ノーリセットという思想

 プレイヤーは手塩にかけて育てたキャラクターが失われることを極度に怖れるため、死亡やレベル低下をもたらす攻撃(エナジードレイン)、そして全滅を避けようと努力します。しかし、努力しようともほんのちょっとした気の緩みや選択のミス、そして偶然によって死亡や全滅は簡単に訪れます。テレポーターの罠で岩盤内部に送られた場合などは即全滅どころか全員ロストという強烈さで、こうしたときにプレイヤーは試されるのです。

 リセットするかしないか――

 リセットすることで望ましくない状況を避けることは可能です。オートセーブというシステムを持っているWizardryでは、城での毎行動時、キャンプでの毎行動時、そして戦闘終了時にセーブがなされます。つまり全滅状態が予想された時点でリセットすれば、パーティが健在の時点に戻ることができるのです(オートセーブ機能を持たないWizではもっと簡単ですね)。これはリセット技と呼ばれ、必要悪といわれながらもある種異端の匂いを漂わせて、Wizardryというゲームに深くはまりこんだものであればあるほど、その実行を躊躇する傾向にあります。

 私はもう二十年近くWizardryで遊んできて、まだノーリセットの境地にはたどり着けていません。私は昨年9月に、育てている最中の善のパーティを地下10階で全滅させ、それが発端となり、救出に向かわせた悪のパーティの二次遭難を招きました。一度に手持ちの2パーティを失った私は茫然自失として、数刻の葛藤の後にリセット。しかしこのリセットをしたという自分の選択にショックを受け、この一年弱、Wizから離れていたのです。一時的にキャラクターを取り戻すことはできたといえ、その後遊べなくなることで、二重に失ってしまったのです。

 一年経って、ようやくまたWizardryに向き合えるまでに回復しました。なので、ここに宣言をしたいと思います。今回はノーリセットを貫きます。

そしてWith Dice

 ノーリセットくらいで大げさなとおっしゃるWizフリークはきっと多いかと思います。ですので、私はもうひとつの縛りを設けました。それは偶然性です。

 Wizardryの世界には、それぞれ基本特性値を違えた五つの種族があり、基本特性値にボーナスポイントを加えることで職業が決定されるというシステムを持っています。ボーナスポイントは5や6という低い値から、時には十二十という高値までランダムで与えられ、ボーナスポイントが高ければ高いほどそのキャラクターの優位が保証されます。生命力が高ければH.P.の上昇が期待され、蘇生の成功率も上がります。素早さが高ければ戦闘時により早く攻撃することが可能になるし、盗賊ならば罠の解除において有利です。などなど、特性値をいかにあげるかというのがWizardryでの生き残りの鍵といってもよいのではないかと思います。

 以上のような理由から、Wizardryではキャラクターメイク時に、高いボーナスポイントが出るまで延々作り直すということが普通におこなわれます。せめて二桁。できれば十台後半から二十も超えれば御の字。そういえば私はWizardryの初プレイ時(ファミコン版#1でした)に最高値である27をたたき出したことがありました。彼は善のHumanで、それを見た私の友人は私をののしったものでしたが、私は彼を僧侶職につけ長く愛用しました。彼はロムカセット及びターボファイルのバックアップ電池の寿命とともに消えたかと思われますが、私の心の中にはまだ健在です。迷宮内で、まだ戦っているのではないかと思われます。

 私は、この高ボーナスポイントを待つのをやめることにしました。すべては一期一会。たとえ彼が凡人の中の凡人としか言い様のないキャラクターであるとしても、公平に遇することに決めたのです。

 しかし、これでもまだ普通でしょう。いくら低ポイントでも、種族や属性(善悪中立といった縛り)を工夫することによって、その職業にとって有利な状況を作ることは可能です。また、ポイントの割り振りも恣意的にできてしまう。そのことから、私はすべてを偶然に任せることに決めました。すなわち、With Dice。種族や属性の選択、ボーナスポイントの割り振りをさいころによって決定します。

 私たちは生まれるときに、その身体能力や才能を選ぶことができません。スポーツ選手になりたくとも、身体特性に恵まれないなどという話はざらにあります。だから私は、Wizardryにこうした現実的状況をわずかでも持ち込もうと思います。そして、凡人であろうとも努力によって目的に達することができるということを明らかにしたい思います。

 以上をもちまして、No Reset, With Diceで遊ぶWizardry、題してノーリセットで駆け抜ける青春の序文に代えたいと存じます。基本的にゲームのプレイ状況レポートですが、この文書にもすでに見られるように、脱線もきっと多いことかと思われます。Wizardry世界はプレイヤーの数だけ多様に存在するといわれますが、そうしたWiz世界の一例を示せればよいかと存じます。


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ノーリセットで駆け抜ける青春:Index 「Wizardry」リセットボタンのない人生(仮)

公開日:2006.07.30
最終更新日:2006.08.02
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