電子書籍端末としてのiPad Pro

 随分前に、iPadの発表をうけて電子書籍を読むために導入するかもといっていました。その記事を書いた2010年時点ではiPadの導入ははたさなかったものの、2013年3月にRetinaになったiPadを購入していて、電子書籍の閲覧に、またゲームにと便利に使ってきたのですが、ちょっと思うところありまして、つい先日、11月11日に発売されたiPad Proを買いました。

電子書籍上の漫画及び雑誌

 iPadがまだまだ使える状況でiPad Proを導入したのは、iPadに不満があったからです。その不満とは、ひとえにディスプレイサイズの小ささでした。電子書籍を読む、とりわけビジュアル重視の雑誌、漫画を読むにはこれまでのiPadでは画面が小さすぎるという問題があったのです。しかしiPadでも充分な画面サイズがある、そう思われる方も多いのではないかと思いますが、私は従来の冊子としての書籍の体裁を前提としており、すなわち横置き、ランドスケープにして読んでいた。慣れているから、ということもあるのでしょうが、特にコマ割り漫画においては見開きを前提とした表現がなされているという現状においては、ランドスケープ以外の選択肢はありません。それは見開き全体を使ってひとつのコマを描く、いわゆる見開きだけの問題ではなく、コマ全体の流れが、左右に配置された2ページをひとつの単位として構成されており、またその単位でもってページがめくられるということを前提として構成されていることからも、スムーズに読み、鑑賞するには、たとえそれが電子書籍であったとしても、見開き必須であるのです。

 こうした表現上の要請ないしノウハウは、これまでの書籍が冊子体を当然の前提としていたことからできあがってきたものであり、今後、冊子という形態にとどまらない、webページやタブレット、スマートフォンで読まれることを前提に描かれる漫画では、違った表現のありかたが出現してくるだろうことも予想されます。ですが、現実的に、現在リリースされている商業漫画のほとんどすべては、冊子体の書籍を表現の媒体とするものであり、電子書籍についてもそれら書籍が底本である以上、いましばらくは見開きで鑑賞できるプラットフォームで鑑賞することが望ましいと思っています。

iPad Proで読む電子書籍

 私が主に愛好している漫画は四コマ漫画です。まずは次の写真をご覧ください。私が電子書籍端末に求めているものがなにか、わかるのではないかと思います。

Digital book on iPad Pro
面白い漫画:キキ『ビビッド・モンスターズ・クロニクル』第1巻(まんがタイムKRコミックス)芳文社,2015年。
左から冊子体書籍、iPad Pro

 私の普段読んでいる四コマ漫画の判型は一般的にA5判であり、それを見開きで読むには、従来のiPadでは若干小さかったということがおわかりいただけたのではないかと思います。

 四コマ漫画なら見開きで読む必要ないんじゃない? それこそ、ポートレートで1ページずつ読めば充分ではないか、そうおっしゃる方もいらっしゃるかも知れません。ですが、四コマ漫画もまたひとつの表現のフロンティア、最前線であり、常に従来の表現を超えていこうとする試みがなされているのが現状です。時に見開きさえも出現する、それが現代における四コマ漫画であります。だから、可能なら、快適に見開きで読みたいというのが人情でありましょう。

 また、四コマ漫画ならではの事情というのもあります。四コマ漫画は、コマを縦に4つ並べるのが一般的です。それはすなわち、常に4段で描かれるということ。1ページには8コマがぎっしりつめこまれ、その小さなコマに多くのものが表現されます。それはすなわち、おのずと絵は小さくなり、書き文字、吹き出し外のセリフの文字も小さくなるきらいがあります。

 読めないんですよ、小さすぎて! A5判なら読めるけれど、従来のiPadのランドスケープではきびしかった……。なので、そういう時はダブルタップして拡大してみたり、あまりにそうした文字が多い場合は縦にして読んでみたりと、いろいろしていました。

 と、ここで、iPadとiPad Proの比較をしてみましょう。

Digital book on iPad Pro
ほら、こんなにも見開き意識したページ構成

 結構な大きさの違いを感じます。正直、購入前に思っていたよりも大きいと感じていて、読みやすさは格段にあがりました。

 四コマ本編だとこんな具合です。

Digital book on iPad Pro
左から冊子体書籍、iPad、iPad Pro

 2コマ目のプカリンのセリフ、吹き出しの中に手書きされたキュウ……という文字、これはまだ大きめですが、これがもう少し小さくなると、iPadでは格段に読みづらくなる。またこれはiPadの、というか電子書籍の問題であるのですが、もととなる画像の解像度が充分にとられていないと、小さな文字は潰れ気味になって読みづらくなるという事情もあります。

iPadからすこし離れて、電子書籍の解像度について

 電子書籍の解像度について、以下に写真を3枚、例示します。

Digital book on iPad Pro
iPad Proでの見開き表示
Digital book on iPad Pro
iPad Proでの拡大表示(おそらく画像原寸)
Digital book on iPad Pro
冊子体書籍

 1枚目、見開き表示、少し縮小されたものを見ていただくと、線が若干ガタガタになっていることがわかるのではないかと思います。2枚目の、ダブルタップをして拡大(おそらくはdot by dotの原寸表示)したものでは、そのガタガタは見られません。アンチエイリアスのかかった画像を若干縮小した場合、このように線がガタガタになってしまうという傾向がある模様です。

 この線のガタガタになる問題は、絵としての魅力をそこなうということもありますが、それ以上に文字が読みづらくなるということも重要で、読んでいて目が非常に疲労する、その要因になっています。

 電子書籍の解像度については、あげすぎるとファイルサイズが大きくなり、ストレージを圧迫する、ダウンロードに過大な時間が必要になるなどの問題があることは理解しますが、快適な閲覧を考えると、そこは少々無理しても大きめの画像を使って欲しい、そのように思っています。

まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズの場合

 まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズはコマ割り漫画であり、四コマではありません。ともない判型もB6判と一回り小さくなっているのですが、それでもiPadでは小さかったということが理解できます。

Digital book on iPad Pro
魅力的な漫画:長月みそか『そこテストにでます!』第1巻(まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)芳文社,2015年。
左からiPad、iPad Pro、冊子体書籍
Digital book on iPad Pro
漫画本編:左から冊子体書籍、iPad、iPad Pro

 電子書籍ビューアは、上下、左右の長い辺が画面に収まるよう縮小されるので、表紙ではiPad Proが一番大きく、本編見開き表示ではさらにもう少し縮小されて、冊子体書籍より若干大きい、ほぼ等倍となります(写真では冊子体が一番大きく見えますが、本とiPadの厚み分の遠近があるためです)。そのことから、冊子体書籍で読んでいる時に小さくて読みづらいと感じるサイズ文字が、iPadにおいてはより小さく、より読みづらくなることが理解されるのではないでしょうか。

電子書籍ビューアとしてのiPad Proの優位

 以上の例示および説明からも、電子書籍を読むにあたり、iPad Proの大きなディスプレイサイズが大きな優位性を持つことが理解されます。テキスト媒体だけではなく、イラストや写真が多用される漫画や雑誌を読むにあたり、見開きで、そのつどページの拡大をすることなく読み進められるiPad Proでの読書は快適であり、現状において最も理想的な電子書籍閲覧環境ではないかと思われます。

 私は電子書籍では漫画だけではなく雑誌、『天文ガイド』を講読しています。この雑誌は天文写真をはじめ多数の写真や図が用いられており、またテキストは段組をもってレイアウトされています。このような特性から、可能なかぎり見開きで読みたいという要求が出てくる。しかし記事を読むにはテキストが小さすぎ、快適に読むにはページを拡大しなければならない。ということは、頻繁に視線をページの左右にゆききさせる必要が生じ、つまりはその頻度でスクロールさせなければならなくなる。それがずっと不便だと感じていました。私がより大きなディスプレイを求めていたのは、こうした事情があったからであり、iPad Proはその要求を満たしてくれるのではないかと期待させてくれた。

 そしてiPad Proは、その期待に充分に応えてくれるものでありました。

余談:電子書籍の課題ないしは不満点

 本記事において提示してきた画像を見ていただければわかるのではないかと思いますが、現状、電子書籍の色の表現は冊子の本に比べて非常に不充分です。『ビビッド・モンスターズ・クロニクル』および『そこテストにでます!』の表紙の比較、人物の肌色を見れば、その不充分さは瞭然です。

 色味の問題は、キャリブレーション次第でなんとでもなるかも知れませんが、現実的にそこまでするのは難しい。また、仮に色味を揃えることができたとしても、おそらくはグラデーションの表現などにまだまだ差があるのではないかと実感させられています。

 ほとんどの漫画は本編はモノクロ、白黒であるため、そこまで致命的にはなりませんが、これがこと写真集や画集ともなれば話は違ってきます。冊子で刊行される写真集、画集の、適切に色校正されているということの意味や価値を、実際に電子書籍を手にし、比較することで、いたく実感させられることになったと思っています。

 それともう一点。これは出版者の姿勢の問題です。電子書籍では、冊子体書籍から落とされている情報というものが存在します。背表紙、裏表紙、カバー折り返し、またカバー下に掲載されたイラストなど、これらは電子書籍には収録されていないことも多く、そのため電子書籍の購入に踏み切ることができない読書があることを私は知っています。

 この点、まんがタイム系コミックスを刊行している芳文社は非常に理想的な対応をしてくださっていて、背表紙やカバー下、時にはカバー折り返しまで収録してくれていて、大変にありがたい。本当に素晴しい。

 ただ、まんがタイムKRコミックスにおいては、収録されるものの画像のサイズが小さいことが多いのが不満です。

Digital book on iPad Pro
『そこテストにでます!』電子書籍版に収録されたカバー

 それはこういう事態を引き起こします。

Digital book on iPad Pro
拡大したカバー折り返しの著者コメント

 字が潰れてしまって読めない! まだこれはいいのです。なんとか読めないこともない。ですが、カバー下イラストにある手書きの文字などでは、どのようにしても読めない、なんてこともあり、こればかりは拡大しようがどうしようが、データの時点で潰れているのだから、もうどうしようもありません。

 それでも、カバー下をほぼ確実に、私の知るかぎりにおいては漏れなく収録してくれているまんがタイムKRコミックスは素晴しい。ですが、もっとよりよいコミックスがあります。それは、芳文社、まんがタイムコミックスです。

 例をあげましょう。

Digital book on iPad Pro
素敵な漫画:町田すみ『だけど温田さんはひとりでデキない』第1巻(まんがタイムコミックス)芳文社,2015年。
Digital book on iPad Pro
裏表紙が他ページと同サイズで収録!

 巻末には、同じくカバー下イラストが他ページと同じ大きさで収録されています!

 素晴しきかな、まんがタイムコミックス!

 まんがタイムコミックスは、賞賛されるべき電子書籍界における理想的プレイヤーであります。みんな、まんがタイムコミックスを買おう!

参考文献および引用

 電子書籍ビューアは、紀伊國屋書店Kinoppy for iOS Ver.2.5.0を使用しています。


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公開日:2015.11.15
最終更新日:2015.11.15
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