私はこう言っちゃなんだがチューニングが大の苦手である。サックスを吹いていたときから苦手で、同族楽器でならなんとか合わせられても別の楽器で合わせるというのが難しい。チューナーの電子音に合わせねばならんときはもう嫌で嫌で、本当に嫌で仕方がなかった。チューニングは苦手である。
でもそれでもチューニングはしとかないと仕方がないものだから、演奏前には必ず、演奏中にも狂うたびに微調整するものである。だがたちの悪いことに狂っていることは分かるくせにそれが高いか低いか分からないのだ。
だからチューニングは嫌いである。
なぜチューニングが苦手なのか、なぜ高低の違いが分からないのか、それは私が音程を音色と同じように聞いてしまうからなのである。
金属的な音色、細く鋭い音色を高いと感じる傾向がある。これが同族楽器以外のチューニングを困難にする原因で、仮にサックスとフルートを合わせようということになると、多分サックスを低めに、フルートを高めに感じることだろう。そのため自分がちょうどいいと感じるように合わせると、実際にはサックスが高くなってしまう。そしてそのチューニングのまずさは感じるのである。
ギターにおいては、巻き弦からプレーン弦に変わる第2弦、第3弦のチューニングがきつい。巻き弦よりプレーン弦のほうが鋭く細い音を出すため、どうしても音程を低く取ってしまって気持ち悪い。高め高めに取ろうとすると行き過ぎてしまったりしたりなんかして、やっぱり気持ち悪い。上げたり下げたりしている間にどんどん分からなくなっていって、もうどうでもいいような気になってくるのだが、やっぱりよくチューニングされていない響きは気持ち悪いので、きっちり合わせなければならないのだ。
加えて私には低めに合わせようという癖があって、だから総じてチューニングはぶら下がり気味になる。ギターは第5弦のAを合わせ、それを基準に4弦、3弦と合わせていくので、第4弦くらいならぶら下がり気味で済むが、このしわ寄せが集中する第2弦、第1弦となると、この世のものとは思えない低さだ。やっぱり気持ち悪い。だから意識的に高めに合わせようとして、行き過ぎてしまって落ち込むんだわ。
ギターを弾いている人にはポピュラーなふたつのチューニング方法。ひとつは第5フレット(第3弦だけ第4フレット)を押さえて合わせる5フレット・チューニング。もうひとつは第5フレットのハーモニクスに第7フレットのハーモニクスを合わせる、ハーモニクス・チューニングである。どちらの方法を選ぶか、実はこれが重要である。
両者にメリットがある。ハーモニクス・チューニングは高い音域でチューニングできるため、比較的合わせやすいのである。またハーモニクスの音色は比較的統一的であるため狂いが聞いて分かりやすい。だからハーモニクス・チューニングを使っている人はきっと多いだろう。
ところがこれが曲者で、ハーモニクス・チューニングで合わせると低めに合わさってしまうのである。
第5弦を頼りに第4弦を合わせる場合を例として説明する。
この場合は第5弦第5フレットのハーモニクスに第4弦第7フレットのハーモニクスを合わせることになる。第5弦第5フレットで出すハーモニクスは、A音の第3倍音のA。第4弦第7フレットはD音の第2倍音のA。同音である。だからこそこれでチューニングする意味があるのだが、物理上の制約により第2倍音は平均律よりも高めになるのである。
ギターのフレットは平均律的に打たれている。平均律は極めて人工的な調律法で、純正な調和を犠牲にするかわりに転調移調の便利を得るという合理性の産物である。そのため純正5度と平均律の5度にはずれが生じてしまう。その差2セント(半音の50分の1)。こんなの分かるわけねーじゃん、と思っていたのだが、これは私が浅はかだった。ちゃんと感じるのである。
ハーモニクスで出る第2倍音は純正の5度が出るので、これを頼りに合わせると低めに合わさってしまうという理由である。なので私はハーモニクス・チューニングであたりを取って、5フレット・チューニングで合わせるようにしている。
まあ実際には弦の太さとか材質の違いとかが関わってくるので、きっちり2セント差ということはないんだろうけど、結果的にずれが生じるのでハーモニクスで合わせる人は高めに合わせたほうがいいのでしょう。
これが基準になるので、一人で弾くぶんには高かろうと低かろうと構いやしない。
第5弦第5フレットのハーモニクスと第4弦第7フレットのハーモニクスを合わせ、第5弦第5フレットを第4弦開放に合わせる。
第4弦第5フレットのハーモニクスと第3弦第7フレットのハーモニクスを合わせ、第4弦第5フレットを第3弦開放に合わせる。
第6弦第5フレットのハーモニクスと第5弦第7フレットのハーモニクスを合わせ、第6弦第5フレットを第5弦開放に合わせる。
第3弦第4フレットを第2弦開放に合わせる。重ねて第5弦第2フレットを押弦した状態で出す第14フレットのハーモニクスを第2弦開放に合わせる。
第2弦のチューニングが苦手なので、とにかく神経質なのである。ちなみに第1倍音であるオクターブは平均律の8度と同じであるのですぞ。
第2弦第5フレットのハーモニクスと第1弦第7フレットのハーモニクスを合わせ、第2弦第5フレットを第1弦開放に合わせる。
演奏前にこうして合わせても、一通りスケールなんかを弾いたりしてると絶対に狂ってくるので、スケールを弾いたらチューニング、何曲か弾いたらまたチューニングというように、ずっとチューニングすることになる。まあそんなに狂うわけじゃないからいいんだけど、チューニング苦手の身としてはちょっときつい。