オタルナイの人のライブに行ってみた その2

 4月1日に続いて、オタルナイの人のライブに行ってきた。オタルナイの人というのは小樽のラグタイムギタリスト浜田隆史氏のことで、ギターインストの世界では有名な人である。エンターテナー(映画『スティング』のテーマ曲としても有名)やメイプル・リーフ・ラグで知られるラグタイムというジャンルを、ピアノではなくギターでやろうというのがこの人で、しかもその試みを非常に高いレベルで実現させているのがすごい。ラグタイムというのはもともとはピアノ曲で、それをギターでやる。遜色なく聴こえる。聴くと親しみやすい曲が、見れば超絶技巧であることが瞭然で、しかしそれを超絶技巧に見せないのはこの人のすごさだ。本当に楽しそうに笑いながら、体を揺らして、リズムにのって演奏する。聴いているこちらもすごく楽しい。

 この、難しいことを難しいと見せないのは、いや難しくて困難で大変なときに、苦しい顔をせず音楽の楽しみや喜びに浸れるということは、すべての音楽家にとって目指すべき目標であると私は考える。難曲の特に難しい箇所にさしかかって、演奏者を見ればもう真剣勝負そのものという顔で音楽そっちのけになっている。そういう演奏家は、浜田氏の演奏を見て反省すべきである。

岡町あーとらんどPIA

 今回のライブは岡町あーとらんどPIAにて、2005年4月2日20時スタート。私はこのライブに、友人の二胡奏者を誘っていた。

 時間よりかなり早くついて、とりあえず場所を見学。二胡奏者は二胡を教えられて交通のアクセスがよい場所を探しているのだ。もしこの場所をそういう目的に使えればという思いがあってとりあえず見てみようと思ったのだが、ちょうどその時、会場の設営をされているスタッフが表にいらっしゃって、場所を貸したりはしているのか云々を聞くことができた。

 聞いてみれば、基本的にはそういう貸しスタジオのような活動はしていないようで、岡町の商店街、まちづくりを目的とした団体(非営利と思われる)があって、安価でこうしたライブ活動を催したりして、町の活性をしているとのことであった。

 しかし、一応時間貸しはしているそうで、またホール側の企画とこちらの出演したいという気持ちが合致するなら、ライブを開くということも可能そう。実は、私はその二胡奏者の伴奏をできるレベルを目指してギターの練習をしているのであって、しかし実際にライブとかいうことになったら、とにかく心もとないな。ライブでやるということはつまり止まったりしてはいけないということで(つまりばれないミスなら許されると私はいっている)、はっきりいって今の私のそれは極めて高いハードルであるといわねばなるまい。

 でもまあ、目標は高いほうがいいのであって、しかし数年かかるよな。いやこういう逃げ腰っていかんよな……。

 話がずれた。元に戻そう。

 ホールを見れば、収容は30から50くらいで、PA装置なんかも用意されている。機材は徐々に揃えているということであった。こぢんまりとした場所ではあるが、逆にこれくらいのほうがやりやすい音楽というのもある。なかなかいい場所かも知れないなあと、覚えておくことにした。

演奏の開始

 食事などして時間を潰してから、再びあーとらんどPIAに。時間が来て演奏が始まる。

天満氏の演奏

 まずはRootsのギタリスト天満俊秀氏の演奏から。しょっぱなからブルースで、前日に聞いたRootsとはまた違う側面が表れて驚かされた。もともとはギターソロをしていた人とのことで、もちろんアイリッシュの演奏もあったのだが、しかしブルースが面白かった。

 レパートリーの広さというのは素晴らしいことで、ジャンルの広さは表現の幅につながってくる。私も好き嫌いなく、いろんなことに挑戦しないといかんなあ。

 前日も演奏されたオレンジ・ログというアイリッシュのダンス・チューンが演奏されて、もちろんこの日のはギターソロ用に編曲されたものである。これを聴いて相棒が、あれを弾いてとかいうんだが、無理だし。あれ、見るからにむつかしいし、というか、私はまだスケールとアルペジオやってるんだよ。弾けへんからと逃げ腰に。しかし最後には、最終努力目標にするよう厳命がくだってしまった。がんばります。

そして浜田氏の演奏

 天満氏の演奏が終わり、少し休憩をはさんで後に、浜田氏の演奏がスタートした。もはや氏のテーマ曲ともいえるメイプル・リーフ・ラグから始まり、昨日の一曲目と同じ曲ではあるが、場所も違えば曲も変わってくる。それに今日はアンプを通した音だ。また違う魅力があった。

 この日の浜田氏は、昨日とは打って変わって、非常に親しみやすい曲を中心にプログラムを構成されていた。高槻のあからさまにギターマニアたちが集まったような客層とは違い、ラグタイムがどんな音楽家、あるいはソロギターってどんなもんなのかを知らないような一般聴衆が今日の客である。ラグタイムの音楽に関する説明なども丁寧に時間をとって、こういうところは氏のサービス精神であると思う。

 歌ものが多かったのは印象的。合計で3曲歌われた。前日同様、今回の裏テーマであるビーチボーイズの演奏もあり、しかしラグタイムこそが氏の真骨頂。私はクライマックス・ラグの演奏を目の当たりにして度肝を抜かれた。あの強烈なテクニック。しかしそれを造作もないことのように、軽く弾いている。いや、もちろんそんなわけはなく、難しいことは難しいのである。それをおくびにも出さないというのは、よほどのことだと思う。

 ローポジションとハイポジションの交替なんかも、軽々とこなしている。私は舌を巻いたね。そういう難所でも音楽が優先、技術のひけらかしだとかは一切なし。素晴らしい演奏かだと思う。私はこの人を絶賛するのに、私の手持ちの言葉では足りない。ビルトゥオーソという表現では表せない人である。なぜなら、彼は技巧家でありながら技巧の人ではないから。だから私はこの人を音楽家であると考える。音楽を楽しみ、表現し、音楽で人を楽しませることのできる、素晴らしい音楽家であると思う。

 アンコールは天満氏を呼んで、ギター2本でのセッションだった。それも面白く、それぞれの個性がよく出ている。音も違えばギターも違えば、表現も違って、そういう違いが一緒の場で合わさるというのは楽しくも面白いことだ。もっともっと長くてもよかったと思ったくらいだ。

終演後

 終演後天満氏に挨拶。色々話して、それから浜田氏にも挨拶。浜田氏はCDの販売で大わらわで、ゆっくり話す時間はとれなかった。けれど、挨拶ができたのはよかった。

 また次のツアーもあるだろう。その時にも聴きにこようと思う。万難排してでもいこうと思う。

おまけ

 二胡奏者にギターっていくらくらいからあるのって質問されて、安いのは一万位からあるけど、やっぱりある程度の値段を払ったほうがいいと思う。でなんでと聞けば、ギターちょっとやってみたいかなって、やっぱりそうか! あの演奏を聴いて、ギターという楽器に興味を持つのはすごくよくわかる!

 ギターに興味を持ってくれたことはすごく嬉しいと思いながらも、けどやっぱり二胡を練習してください。ギターは私が練習しますから。


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公開日:2005.04.03
最終更新日:2005.04.03
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