オープンへの接近

もしくは続・緩めるのか緩めないのか

 こういうタイトルの付け方に、フォークへの傾倒を感じさせるのであるが、――いや、感じないか。ともあれ、さだまさしの『フレディもしくは三教街』は名曲です。一度聴いてみよう。

 さて、以前少しく触れた練習後の弦の扱いであるが、私は長く、それこそ一年ほど弦を緩めないでいた。ギターの安定を考えてのことであるが、しかしこの頃少し宗旨替えをしようかと迷っている。それは、表板がすこし持ち上がってきているのに気付いたからだ。

ギターに現れた変化

 実際のところ、ギターに生じた変化はそれほどでもない。ギターはわずかにトップが持ち上がるくらいがいいみたいにいう人もいるし、最近のものは最初からそういう風に作ってあることもあるという。そもそも、なんの知識もなしにギターをはじめた私は、もとの状態を覚えていない。だから表板が持ち上がったのかどうかも分からない。いい加減なもんだ。

 Googleあたりで「弦 緩める」で検索すると分かるのだが、この問題で悩んでいる人、迷っている人は非常に多い。ヴァイオリンなんかでは、決して緩めてはいけない、なんていう実に力強い発言もあるのだが、ギター、特にスチール弦を張るギターでは、緩めたほうがいい、緩めないほうがいい、諸説紛々で実に迷う。読めば読むほど迷う。調べればそれだけ迷いが深くなる有り様だ。

 例えばマーチンなんかは緩めるを推奨しているようで、念のため演奏後は、弦がたるむぐらいまで弦のテンションを下げて、ネックに大きな負担がかからないようにしておけば安心ですなんていっている。たるむぐらいまで緩めろというのも極端だと思うのだが、一体どうしたものだろうか。

 いろいろ調べてみると、ブレーシング(力木)のタイプも関わっていて、スキャロップド(力木を削ることで反応を良くしているタイプ)などは繊細な反面強度が足りず、弦の張力に負けやすいという。トップの持ち上がりが発生しやすく、だから弦を緩めたほうがよいという話になるわけだ。

 ちなみに、私の楽器AriaAD-35はノンスキャロップドの模様。多少は強度を稼げそうに思えるが、少々膨らんできているのも気になるから、ちょっと緩めてみようかという気になった。

ギターに生ずる問題

 弦を緩めないことで発生する問題は以下のようなものが代表的らしい。

 逆に弦を緩めることで生ずるデメリットとは次のとおり。

弦の緩め方

 弦を緩めると一言にいっても、それもまたいろいろあるらしい。調べたものを書き出してみるとこんな感じになった。

 また、切れやすい第3弦第4弦は緩めないという意見もあって、非常に参考になる。すごいね、インターネットって。

私の選択

 私の選んだのは、1音下げと中の2弦を緩めないというアイデアの複合で、つまり第1,2,5,6弦を1音下げすることにしてみた。

 やり方は簡単で、3弦Dのオクターブ下に6弦をあわせ、オクターブ上に1弦をあわせ、第5弦のオクターブ上に2弦を合わせる。なお、この段階で下からDADGADになってる。DADGADといえば、この頃世界的に流行のアイリッシュ音楽ケルト系音楽でポピュラーなチューニングだ。

 今までオープンチューニングとかを試したことはなかったのだが、これを機会にちょっと身近に感じられるようになったのは儲けだった。なにしろボトム3弦がDADという空5度(パワーコードというほうがポピュラーだが、この呼び方は嫌いだ)を形成して、非常に響きが豊かで気持ちがいい。いや、ほんとすごいよ。どっしりと響いて染み渡る感じがある。弦のテンションもこれでもかと緩いので(1音下げはほんとに緩い)、その分響きにも余裕がありなんだか懐かしい気持ちになる。

 思えば、昔、A=440なんて誰かが決めてしまうまでは、みんな好きな高さで弾いていたわけで、バロックの頃なんかは、Aが415くらいだったり380くらいだったりと、非常に低い音程でやっていた。弦楽器の構造はほとんど変わってないから、それだけ弦のテンションが緩かったわけだ。弦楽器は、ピッチを上げると音がきらびやかになる。つまり、穏やかな響きが支配的だった時代があったのだ。

 そういった穏やかさがあるのは悪くない。ちょっとした視点がかわることで、世界が広がり、今まで気付かなかったことが見えてくるように思える。これは本当にいい機会であった。

 1弦下げの話を続けると、最後に第5弦を第3弦のオクターブ下にあわせて目標達成だ。なおこの状態でもボトムの3弦、加えて第3弦もDGDGという空5度を形成していて、響きは非常に豊か。これは悪くないよ。ちなみに、こういう調弦法もないではないのだ(というか、ギターのチューニングなんてなんでもありだから)。

まとめ

 こんなわけで、ギターの弦を緩めるかどうかを考えて、思わずオープンに接近してしまう結果になってしまった。人間、なにをしてなにを得るかは本当に分からないものであるな。


<   >

こととねギターサイドへ トップページに戻る

公開日:2004.03.04
最終更新日:2004.03.15
webmaster@kototone.jp
Creative Commons License
こととねは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示 - 継承 2.1 日本)の下でライセンスされています。