ババさま、指が痛い。いや、本当に痛い。親指の関節が、人差し指の関節、中指のも、薬指小指はさほどではないが痛いことは痛い。指の曲げすぎ反らせすぎによる関節炎と思っていたが、どうやら事態はそれほど優しくないかも知れない。
ピアニストやギタリストなど、指を酷使する器楽奏者の共通の悩みに腱鞘炎という病気がある。腱鞘炎というのは、身体を動作させるための腱がその通り道である腱鞘とともに炎症を起こす症状で、ひどくなると腱にしこりができて、ばね指という症状に発展することもあるという。症状が悪化すれば外科手術で治療ということにもなりかねない恐ろしい病であるが、なに私の場合は大丈夫だ。腱鞘炎の可能性をはらみながらも、こりゃただの関節炎だろうという気もしている。
だいたい腱鞘炎は二年三年という長いスパンを経て蓄積されるものだそうなので、ここ数ヶ月でいきなり腱鞘炎になるなどということは考えにくい。ちなみに、腱鞘炎を引き起こしやすい条件は以下の通りだ。
つまり体を冷やしながら、力んで長時間練習すると腱鞘炎にまっしぐらに進むことが出来るというわけである。
この三要素のうち問題なのは、力みそして冷えなのだ。
まだ力の加減の分からないギター初学者の私は、必要以上の力をかけて押弦していることがあからさまだ。しかもそれを指の力でやろうとしている。それが誤りなのである。
私のギター教師である教育学者は、セーハをうまくできないと言った私に、「それは指で押さえようとするから無理なのだ。腕全体で押さえるように」との忠告をくださった。また大いなる先達ギター科学生は「セーハは腕の重さを利用すると楽にできる」との言を呉れた。
そう。指で押さえて弾こうとするからいけないのだよ。あくまでも弦を押さえるのは腕の仕事であって、指はただ弾くだけ。軽く、できるだけ軽く動かすだけなのだ。
以上を意識しながらの練習である。だから問題は、それをうまくできないということに尽きる。
グレン・グールドというピアニストが昔いて、彼は演奏前に腕を熱い湯に浸すという儀式をかかさなかった。なにより冷えを嫌った彼は夏でもコートと手袋着用で、言うならば一種の奇人変人だったのだが、だがここに彼の卓見がある。
指の運動に冷えは大敵なのである。
だもんだから、私も演奏前にはよく手をあぶるぞ。なにしろ冷え性なもんで、指先が夏でもひんやりしている。だから冬なんかはストーブ、ファンヒーターなんかの前で指が温まるまで縮こまっている。夏でも長袖である。寒い日などは、ポケットに手を突っ込むのは危ないから、手を内懐に組んで手先の冷えを防御している。
けれど夜練習するならもっと手っ取り早い手段がある。風呂上がりに練習するのだ。手先だけではなく全身暖まってから弾けば冷えの問題は解決だ。やはり風呂はいいよ。世界に誇る日本の偉大な文化であるね。
とりあえず現状を見てみると、これは関節炎だと思うのだ。
理由はひとつ。関節の固い私が、今まで以上に強く指を曲げたり反らしたりしているのだよ。事実弦を押さえるために無理な形を強いられる左指は、右手以上に強く曲がりかつ反るようになっている。
人間、指が曲がるのは関節からである。つまり関節がこれまでの稼働範囲を超えて働いているのだから、そりゃ関節が痛いのも当たり前だ。
けれどここで油断すると腱鞘炎の危険もある。運指の基礎反復練習中、小指、薬指などの不器用な指に繋がる小手から肘にかけてがだんだん痛くなってきて、ついには動かなくなってくる。それを一生懸命にこなすのが自分の悪いところだが、まあ練習というのはもとよりそんなもんだ(科学的視点を欠いた発言)。
この小指、薬指状況が続けば腱鞘炎に陥る可能性もままあるわけである。
まあでも負荷がないと身体能力は発展しないし、今までピアノでもサックスでも笛でもこんなことが起こってたけど、直に慣れて平気になった。
そんなわけだから、ギターに関してもほどほどにやってりゃ大丈夫だろ。腱鞘炎を舐めた発言をするのである。