全部がまるで嘘みたいで

 ネットワークのこちらとむこうで、わたしとあなたが言葉をやり取りしている。そのとき、確かに私たちの思いはラインを越えて、共有されたり共鳴したりしているものと感じられるのに、どうして私は寂しかったり悲しかったりするのだろう。

 昔、電話越しに話したあなたの声がひどく身近に感じられて、きっと私はあなたのことを、だなんて思って、それは多分あなたも同じだったはずなのに、どうしてそれが離れていったりしたんだろう。一度は通じたと思ったものが、だんだんと離れていくように感じられて、私はその距離を埋めたいと望んだ。きっとそれはあなたも同じで、けれどそのための努力が結局はお互いに溝を深めたように思う。あなたの私への失望を友人経由で聴かされたときに、わたしたちのなにが悪かったんだろうと思った。いや、きっと私が悪かったんだと思った。

 一緒に話していた時間、最初のうちは話すほどに心の重なり合うような気がしたものなのに、いつの間にか話せば話すほどあなたが遠くに感じられるようになって、わたしたちは同じ言葉を話しているのに、私の思いはきっとあなたには通じていないのだと思った。もしかしたらあなたも同じように思っていたのかも知れないね。言葉を費やせばそれだけ気持ちとの距離が広がって、いったい私はなにをいいたいのかもわからなくなって、どんどんひとりで孤独を深めていって、寂しかったり悲しかったりの正体はきっとそれ。目の前にいて、手を伸ばせば触れることもできるあなたの思いがわからない。対する私は空っぽで、思いはきっとどこかにあったはずなのに、それすらも言葉にならなくて、まるで自分自身が暗闇の中に投げ込まれたように空白で。寒々とした気配の中で震えているのに、そのことさえも誰にも告げることできなくて、笑っているあなたや明るい照明さえもなんだか全部うそみたいに、作り事みたいに思えてきて――。

 私は今も空白のままでいます。


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公開日:2006.05.02
最終更新日:2006.05.02
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