二度と酒の事なんか考えない

 割り勘の焼き肉屋で、お飲み物はなににしましょうかという注文取りに、ワカメスープと答えるのはきっと私くらいのものだろう。生ビールが何人で、ウーロン茶が何人、そしてワカメスープが一人。――このところ、私は酒を飲まないようにしている。

 私の友人に酒も煙草もやらないというのがあって、体に悪いことを好き好んでするその考えがわからないというんだが、煙草はともかく、酒に関しては人生損をしているよと私は思っていた。けれど、ギターを弾くようになってから、考えが変わった。状況の許すかぎりギターに触れていたいと思うと、明晰な意識を損なわせる酒は邪魔なのだ。酒を飲めば不注意が顔を出す。ぞんざいな練習は害にしかならないのだから、できるだけクリアーな頭を保っておきたい私には酒は毒でしかない。

 まわりの連中がビールから焼酎やなんかに移る頃、私はもやしスープを頼んでいた。

 あの娘と食事をしたとき、白ワインをグラスで頼む彼女を見ながら、私は熱いお茶はありますかと訊ねていた。酒が入れば意識が昂揚して確かに楽しいだろうが、連日の睡眠不足に気力で対抗する私である。気力をくじかせる酒はいけない。眠くなってしまう。せっかくの時間を意識を酩酊させてすごしてしまってはもったいないから、はっきりした頭脳でもって彼女を認識し続けていたいから、私は酒は飲まない。

 もうじきお開きだろうという時間になって、私はたまごスープを食べていた。肉の脂やしつこさが嫌いな私には、たまごスープの方がずっとご馳走だ。割り勘負けなど気にせず、今のこの時間が早くすぎて欲しいと思っていた。早く帰って、早くギターに触れたいと思っていた。

 以前から私を知っている人には、私の酒に対するスタンスの変化は意外かも知れない。昼間からワインを飲み、食事の際にもワインを飲み、帰り道のコンビニでシードルを買っていた私が、今ではもう酒は飲まない。酒のことなんて考えない。


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公開日:2005.01.16
最終更新日:2005.01.16
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