夜の情景

 眠くて仕方がないのに、床につくと目がさえたようになって眠れない。小半時も、まどろみもせず横になって、仕方がないので本に手を出して時間を潰しはじめる。早く寝なければならないことはわかっている。明日も朝は早い。なのに、目は字を追い続けている。

 時間は刻一刻と過ぎて、夜半過ぎにもなって、焦りはいよいよ色濃くなる。疲労はいや増して、頭も身体もだらりと重く、早く寝なければ明日に差し支えると思ってもなかなか眠ろうとしない。連日睡眠不足を積み上げている。

 翌朝、起きねばならない時間まで後数時間という際になって、いよいよ眠ろうと思う。だが思うのは気ばかりで、明かりを消して横になれば、目はさえてくる。いろいろと思うところが浮かんでは消え浮かんでは消え。紛らわしにボリュームをしぼって、音楽をかけてみる。

 少し開けた障子のむこう、硝子戸ごしに真っ暗な木々を見て、言い様もない侘びしさに取りつかれる。矮小な自分を抱き締めるように丸まって、目だけはらんらんと外を睨んでいる。音楽は聞いているようで聞いていない。なんとなしに流れているだけで、耳にするのは断片ばかりだ。目を閉じれば意識がうるさく、目を開ければ風に揺れる木が見える。

 眠れない理由はわかっている。眠れば明日が来てしまう。明ければ生活が始まる。それがたまらなく嫌なのだ。昼の暮らしは煩わしくとも、耐えられないほどではない。けれど、この時間になるとどうにも堪え難いものに思えてきてしかたがない。

 グールドの弾くブラームスのラプソディがむやみに悲しくて、意味もなく生まれてきた自分を嘆いて、涙を流す。しかし意識はあくまでも明澄で、今も醒めた目を投げかけている。見ていたはずの現実が不意ににじむ。まどろみ、夢と現の狭間に落ち込んで、ようやく浅い眠りに沈む。

 眠らなくとも朝が来ることもわかっている。だが、わかっていながらどうしようもないこともある。こんな毎日。


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公開日:2001.06.12
最終更新日:2001.09.02
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