話をきかない人々

露出補正の攻略編

 それはまだ学生だったころ。写真を撮りはじめたばかりの僕は、撮影技術に関する知識や情報に飢えていた。HIROMIXが世間に認知されはじめていたぐらいの時代だった。女学生たちが彼女の写真集を眺めているのを、遠目に眺めたのを覚えている。

 一人で写真をはじめた僕は、周りに同好の士を持たなかったため、情報を本に求めるしかなかった。隙間時間を見つけては、書店、図書館に寄り写真関連の本を物色した。よいものが見つかれば買って、何度も何度も見返したものだ。

 ある日のこと。通学途中の書店で、露出に関する解説本を買い求めた。当時はまだネガでしか撮っていなかったので、正直露出について考えることなどなかったのだが、いつか来る日のための先行投資である。授業にはまだ早い教室で、さっそく僕は定席に着くと、買ったばかりの本を読みはじめた。

 直に集まりはじめる学生たち。その中に彼がいた。彼は一回生からの知り合いで、ただの知り合いというには知りすぎており、友人というほどには知らない。その程度の間柄だったが、男の少ないこの大学で、われわれは自然つるまざるを得ないのだった。

 彼が僕の本に興味を持ったようだった。荷物を置くと、まっすぐこちらに近づいてくる。僕はといえば、目の端に彼を捉えながら正直少し面倒だと思っていた。

 彼が話しかけてきた。

「なに、見てるの?」

「写真の露出の本」顔も上げずに応える。

「ふーん、写真なんか撮ってるんや」彼は少し饒舌なところがあり、それを僕は苦手としていた。「買うとき、恥ずかしくなかった?」

「ん? 別に。これ写真の本やし」

「そやけど――」

 彼が問題としているのは、どうやら表紙にある女性の写真だった。一人は白い服を着て、そして一人は水着だった――ってゆうか、これ写真の本やし。恥ずかしいことなんかなんもあらへん、
「別にこんなん普通やん」

「そうか、もう大人やもんね」

ってゆうか、これ写真の本やし!



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公開日:2001.12.02
最終更新日:2001.12.02
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