第四章 ポリフォニー

 「同時に二つ以上の音が響く」ということは西洋音楽では発見であった。そして、このことは新しい「響」という考え方を作り出し、そこから「多からの一」、「一の中の多」という二つの側面が現れた。前者の「多からの一」からは和声、後者の「一の中の多」からはポリフォニーにたどり着くことができる。

第二次元

 「一の中の多」という考え方からポリフォニー――同時に二つ以上の声部の動きがある音楽への可能性が見いだせる。単旋律であったグレゴリオ聖歌は、その旋律だけで完成している音楽なのであるが、一元的な音楽であると言える。この聖歌からポリフォニーへ移行したことは、新しい二元的世界を作り出す。そこではグレゴリオ聖歌の持つリズム的自由さは失われていたが、代わりに表現の豊かさ意味内容の増加などの、大きなメリットもあった。

 モノフォニーとポリフォニーの対照的性格として、メロディが前者ではそれ単体で完成されていたが、後者では一つの声部は独立できるものではなくなっていることが挙げられる。それは、ポリフォニーのメロディが「一の中の多」という側面だけでなく、全体を作り上げるための「多の中の一」という性格も担わされているためである。

声部の個体性

 同時にいくつもの動いているメロディを聞き取るのは至難の技であり、そのことから、模倣という、一つ一つの声部を際だたせるための技法が用いられる。しかし聴者はすべての声部を感知し続ける必要はない。むしろ、音それぞれの動きを感じながら、ついていくだけでよい。

無限の進行

 音楽が二元的になったことから、無限進行への可能性が現れた。ポリフォニーではフレーズを重ね続けることによって、とぎれることのない無限に進行し続ける音楽を作り出すことができる。

協和と不協和

 多声音楽が持つ問題に、協和と不協和がある。即ち二、七、増、減音程、さらにかつては四、三、六度音程も不協和とされた時代も合った。それらは数の理論に基づき規定されたのだが、この理論は最終的に人の快、不快という感情によって区分されているという欠点がある。

不協和の制御

 不協和音はその内的緊張によって不協和から解決へと進む、音運動の全体目的に貢献する。これは基本的な音楽的意味であるが、初期の多声音楽においては、不協和音程を避けるあまりに、非常に不自由な音楽になっていた。この状態を解消するために考案されたのが「対位法」である。対位法の主な作用は、不協和音を協和音からの特殊な逸脱と感じさせるというものである。このことから、音楽の一般的運動法則は、協和音から不協和音、そして協和音へと進むものと解釈することができる。

休息・静止の無い協和音

 一般的に協和と不協和の関係は、休息・静止と不安・動揺の関係になぞらえて説明されるが、実際の音楽の中ではさうではない。実際の音楽の中では「力性」が働くために、真に休息・静止であると言える音程は、一‐三‐五だけであると考えられ、そのためにほとんどの協和音は静止・休息ではなく、すべての不協和音は常に不安・動揺である。

 以上から、音楽が単旋律から多旋律に移行したときに起こる、音言語の複雑さやその結果である表現の豊富多様さが理解されるであろうと結ばれる。


日々思うことなど 1996年以前へ トップページに戻る

公開日:2000.08.03
最終更新日:2001.09.02
webmaster@kototone.jp
Creative Commons License
こととねは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示 - 継承 2.1 日本)の下でライセンスされています。